金魚の絵
3月の初めに、病気の父の容態が急変し、亡くなりました。突然のことで、残された家族は何をどうしたら良いのか、ただただ狼狽えるばかりでした。しかし、8年前に私の結婚式を行った会社さんで、「そういえば、お葬式もお願い出来るんじゃなかったかも」と母が言い出しました。亡き父は8年前の私の結婚式までの段取りがスムーズにいったことをよく覚えていて、時々私の結婚式のDVDを見て、「この結婚式は良かったね〜」と私が巣立った寂しさと喜びを感じていたことを母づてに聞きました。
連絡をすると、担当の方がすぐに駆けつけてくださり、次々に私達が決めてこなしていかなければならない事のフォローをしてくださいました。正直、父が亡くなってからのお葬式までの日は目まぐるしく、精神的に辛い日々でしたが、式の準備のもろもろをしていただきけるので非常に救われました。お葬式を行うにあたり、担当の方はこちらが、伝えづらい所や要望も、正直に話やすい雰囲気にしてくださり助かりました。こちらの要望としては2点程あげさせて頂きました。ひとつは父の入院費用がかなりかかり、あまり予算に余裕が無い事。あとひとつは父が唯一の趣味としていた絵を描くという事を式の要素として取り入れる事でした。担当の方は、これらを踏まえて「ご家族様でゆっくりお見送りされる為に白木祭壇ではなく、花祭壇ではどうでしょう」と提案されました。式の当日は生前、父がスケッチのモチーフとしてよく描いていた金魚のスケッチブックをディスプレイして頂きました。
これは父を知る人の中でも二つに分かれ、父を幼少の頃から知る人は「小さい頃から絵を描くのが好きだったもんな」と語っていました。また仕事上で親しくさせて頂いていた方々は「こんな趣味があったんだね」と父の意外な一面を知って頂くようでした。式では生前の健康な頃の父の姿もDVDで流して頂きました。感情を表に出すことをしなかった父。私達家族の記憶の中に今も息づく父の姿といえば、めったに笑わず、しかし珠に見せる優しい笑顔が素敵な父でした。
その映像を見ていると、父が金魚の絵を描いていた姿がありありと目に浮かび、すぐ側に父がいるような懐かしい想いや、父への感謝の気持ちで胸がつまり、次から次へと涙が溢れました。式の後は、優しかった父の思い出を家族や親族みんなで和やかに語り合いました。温厚な父を怒らせてしまった子供時代の失敗などの話ものぼり、父が亡くなってから初めて心から泣き、笑うことができました。限られた予算の中で、こちらの希望した落ち着いた雰囲気、また、実直な人生を全うした父にふさわしいお葬式をあげてあげられることができました。きっと天国の父も喜んでいると思います。